私の外来にたくさんの不登校の子ども達が来ます。多くは「起立性調節障害」、つまり自律神経失調症という診断名がつきます。朝登校しようとすると、頭痛や吐き気、腹痛などといった不定愁訴と呼ばれる症状が出現して学校に行けなくなるのです。これは、「古い脳」の視床下部にある自律神経のコントロールタワーの故障なのですが、実はその故障の原因こそが、自律神経と密接なつながりを持つセロトニン神経をはじめとするモノアミン神経系の不具合、つまりストレスや不安をうまく前頭葉につないで解消できないことによるこころの不具合によるものだと考えられているのです。この神経系の不具合を防ぐためには、ずばり「早起き」「早寝」「きちんとご飯」「リズム運動」といった正しい生活リズムが最も大事なのですが、今回の実践はこれら思春期の問題を予防するためのヒントを数多く与えてくれました。
そして第二に明らかになった点、それはリズム遊びを通して生活リズムを変えるだけで、乳幼児の脳機能は変わりうるということです。今回、園児たちの自律神経機能は「イキイキ、そしてリラックス」パターンに長期効果として変化していきました。発達期に自律神経機能をきちんと育てておけば、将来思春期になったときにも、少しくらいのストレスや不安に打ち勝って、自律神経の不具合なんか起こさない健全で強いこころを持つことができる可能性が高いと考えられます。
また、リズム遊びをしているとき、子ども達の前頭葉の働きも活発になっていることもわかりました。大脳皮質にある前頭葉は、人間の脳の中でも、最も高度な機能を司る部分です。この部分に幼児期にたくさん刺激を与えて活性化を促すことは、認知、短期記憶、論理思考、空間認知を初めとする様々な機能をより良く発達させることにとても有益であると考えられます。
それだけではなく、前頭葉は「人間らしい心」の源でもあります。安心したり喜んだり、自制心を持ったり人を好きになったりする「こころ」も司っているのです。脳とこころが健全に育つために、どのようなことが必要なのか、今回の結果から明白に私たちは知ることができたのではないでしょうか。
さらに第三の点として、保護者の方々にご協力いただいたアンケート結果に大事なメッセージが含まれていました。保護者の方々のこころが実践後に「育児への不安が少なく」「ご自身が感じる不安も低く」「抑うつ感も低く」変化していました。
実はこれが、セロトニン神経系がうまく働くための大事なポイントなのです。不安のない脳ではセロトニンが大量に作られるので、さらに不安なくいつも楽しい気分でいられるようにどんどん良い効果を生みます。保育園では楽しいリズム遊びをして子ども達がたくさん笑って体を動かし、家庭では早く寝付いて早起きをすると回りの大人も楽しくなります。大人が楽しく笑っていればもちろん子ども達は楽しくなります。どちらが先かはわかりませんが、このような結果が出たことはとても重要なことだと思います。
●リンク→セロトニン神経系について
子どもの生活リズムを整え、脳の働きに関する正しい知識を皆で共有すること、そして保護者ももちろん指導者も子どもの前でいつも笑って楽しい気分でいること、子どももいつも楽しく笑っていること、それだけで脳とこころが正しく育ってくれるのであれば、実に簡単なことに思えます。